訪日の地方分散、旅館の利用促進
――昨年の振り返りから。
緒方 訪日外客数は前年比2.2%増の約3188万人と、JNTO(日本政府観光局)が統計を取り始めた1964年以降、最多となった。東アジアでは8月以降、韓国市場で訪日数が激減する状況が続き、拡大にブレーキをかける一方で、中国が959万人と初めて900万人を突破し、英国もラグビーワールドカップ(W杯)などによる訪日需要の高まりで初めて40万人を突破するなど、各市場が活発化した。
短期的にはさまざまなリスクの影響を受ける可能性があるものの、長期的に見れば、昨年から続く大型スポーツイベント開催による日本の認知度向上、羽田空港発着便の増便や各地での新規路線就航など、これからも右肩上がりの傾向は続くと想定される。
――御社の取り組みと実績は。
緒方 国際旅行事業本部(現訪日旅行営業部)の取扱額は好調に推移した。海外の旅行会社との取引は、豪欧を中心としたラグビーW杯観戦者らの取り扱い、MICEを中核とした団体旅行の取り扱い拡大で大きく伸ばすことができた。
個人旅行では、訪日客のFIT化がますます拡大し、市場競争も激しくなっているが、当社は宿泊のみならずオプショナルツアーなど、より幅広い素材の提供で一定の拡大を図ることができた。
国内の官公庁や企業への営業では、招へい事業で競争が激化し、取り扱いが伸び悩む中、スポーツ招へい周辺事業、地方創生関連事業など、新たな事業領域へ取り組みを拡大した。
1961年のインバウンド専門組織の立ち上げから、これまで積み上げてきた取引先の厚みと信頼を糧に、着実に取り扱い実績を伸ばしたのが昨年1年間だ。
――旅連との関わりは。
緒方 訪日需要創造委員会の皆さまの協力を得ながら各種の取り組みを推進した。
国内では、会員の皆さまから要望の多い当社の訪日旅行営業部のセールス担当と手配担当者とのワークショップの開催。海外では恒例となった台湾での「日本の観光・物産博」に加え、インドネシアでの日旅連会員専用の商談会も継続実施している。毎年、世界60カ国の取引先にお届けしている海外エージェント向けの商品パンフレットでは、2020年版は日旅連推奨ルートの掲載内容を充実させるなど、日旅連の皆さまとウィンウィンの関係を構築できる事業を推進している。インバウンド向けパッケージ「RedBalloon」は、日旅連の皆さまの参画協力をいただいたおかげで、昨年の取り扱いは前年比約127%と大きく拡大できた。
――今年の市場見通しは。
緒方 オリンピックイヤーは海外からの訪問客が年間を通じて減少するといわれるが、開催日程が訪日のピーク時期とは重複しないことや、直近の春先の受注動向も堅調なことから、今年も訪日外客数の伸びは継続すると想定している。年初からの新型肺炎の影響がどのように出るかが懸念されるが、常に海外のエージェントと連絡を取りながら、マーケットの状況に合わせて対応していきたい。
――今年の販売目標は。
緒方 海外の旅行会社から受注する訪日営業の分野は前年比105%と拡大を目指す。今年も引き続きMICEを核とした団体旅行の拡大と、アジアを中心としたFIT市場の開拓に取り組む。
団体旅行については、年々競争が激化する観光シリーズを堅実に獲得するとともに、毎年開催されるイベントにおける訪日需要を確実に取り込む営業体制の強化と、新興国への営業強化を引き続き図る。
個人旅行については、多様化するFIT旅行者のニーズに対応するべく着地型素材の拡充に努めるとともに、昨年から本格稼働した海外エージェント向け販売システムを活用し、取り扱いのさらなる拡大を目指す。
国内営業の分野は国内の官公庁や企業からの招へい事業の受注で巻き返しを図る。全国の支店や仕入・誘客推進センターとの連携も欠かせない。
今年、国際旅行事業本部とソリューション営業本部を統合し、グローバルソリューション営業本部として新たなスタートを切った。昨年設立されたグローバル戦略推進本部と連携することで、在外のグループ会社をうまく活用しながら、インバウンド、アウトバウンド、法人営業の相乗効果が発揮できるような取り組みをしたいと考える。
――日旅連会員にメッセージを。
緒方 インバウンド部会が昨年から装いも新たに訪日需要創造委員会として取り組みを強化されているが、引き続き連携を深めていきたいと考えている。
台湾などの海外における商談会や弊社担当者とのワークショップなど、基幹となる施策を継続するとともに、訪日需要の地方分散と旅館の利用促進などの中長期的なテーマも引き続き取り組みたい。
(聞き手=森田淳)
日本旅行 執行役員 グローバルソリューション営業本部 訪日旅行営業部長 緒方葉子氏
拡大はこちらへ